「……俺は、こっちに出でくるときに、オヤジとも鉄平さんとも約束したんだよ。
大人になったら必ず長野に戻って、旅館の仕事を継ぎますってさ」
そのときの誠は、いつもの頼りになる兄貴分の瞳ではなく、
旅立つ親友の背を見送る車椅子の少年の眼差しをしていた。
胸を焦がす嫉妬と焦燥とを、諦めと憧れの手綱でなだめ、押さえつける。
いずれは訪れる友との別れに、仕方ないさとうなずきながらも、
その場限りの旅立ちの約束を交わせるほど、まだ割り切れてはいないのだ。
「だから俺は、いつかは自分の手で、夏を終わらせなきゃいけないんだよ」
つぶやいた横顔には、玲子がこれまで見たことがないほど深い影が射していた。
中学卒業と共に故郷を出てきた誠は、そのとき22歳に、すでに若い大人になっていたのだ。
