「そのうち私、食欲もないし眠れないし、すっかり病人みたいになっちゃってね。
ま、今思えばホームシックだったんだろうけど。海が恋しい病だよ」
玲子は、旅館の人間関係は省き、海に対する愛着だけを栄治に語った。
「それは、俺、ちょっと気持ち分かるかも」
栄治は、小さく笑ってうなずく。
「で、静養も兼ねて、一度こっちに戻ったのよ。
……でも、それがよくなかったみたい。
栄治には分かると思うけど、帰る場所なんてない方が腹が据わる場合って、あるじゃない?」
玲子は、視線で栄治に断りを入れると、煙草に火を点け、煙と共にため息を吐き出した。
