おまけに老舗の旅館あらふじでの人間関係は、
リーシュコード時代には考えられないほど複雑だった。
誰もが、女将である伯母ですら、至らない新米仲居の玲子をまるで腫れ物に触るように扱う。
失敗だらけの玲子の仕事振りをきちんと叱ってくれるのは、
板場に詰めっ切りの誠しかいないのだ。
初めての長野での凍りつくような冬、左脚の古傷の痛みに脂汗を流しながら、
玲子は、お茶やお花の免許もなく着物の着付けすら1人ではできない自分が、
老舗の旅館の跡取りの誠と、すんなり婚約までこぎつけた理由を知るはめになった。
自分が顔を出すといっせいに黙り込む、仲居仲間たちの襖の陰の囁きで。
19歳のあの夏、誠の目の前で起きた事故。
そしてそれに対する誠の責任。
あらふじにいる限り、玲子は、誠の弱味につけ込んだ傷物なのだ。
