「……もう一度だけ見たかったな。誠のビックカービング」
玲子は、重いため息と共にどうにかそれだけ言った。
ビックカービングというのは、レイルと呼ばれるサーフボードの端で波面を滑り、
海に大きな弧を描くサーフィンの基本だ。
一見簡単そうに見えるけれど、これを美しく決めるためには、
流行りの派手なテクニックを披露するよりもずっと筋力とバランス感覚を必要とする。
誠は、まるで翼を持つ者のような優雅さで、
誰よりも伸びとスピードのある見事なターンを決めることができた。
そしてそのサーフスタイルは、
頑固なまでに基本を大切にする誠自身の生き方とよく似ていたのだ。
