いつものベンチに彼の姿はなくて。

開いたドアの先を、ぼんやりと見つめた。


『ドアが閉まります……』


発車を知らせるベルが、ホームに響き渡る。


プシュウ――


目の前で、ドアが音を立てて閉まった。


カタタン、カタタン……


遠ざかってゆく電車を見送る。

とっさにホームへ降りた、自分に驚きながら。


「――うそつき……」


静けさの訪れたホームに、白い溜め息が舞う。


『見つめていられれば幸せ』


なんて思ってたあたしは、もういなくて。

綺麗な気持ちだけじゃいられないくらい……

あなたが好きで。


心の中で、叫んでる。


気づいて。

気づいて。

あたしに気づいて……


名前も知らない、あなたの瞳に。

あたしは、映ってますか……?