「今日、何で逃げたんだよ?」


恭哉のいなくなったリビングのソファに座り、皐月は浅い溜め息を吐いた。


「あんな人混みで揉めてほしくなかったからでしょ」


弥生は少し怒ったように、頬を朱に染める。


「……あれ? どうしたの?」


いつもなら言い返す兄が黙ってしまったので、弥生は不思議そうに首を傾げた。


「……何でもねぇよ」


皐月の脳裏に、雪菜の兄の顔がよぎる。


あいつも、妹が心配で追い掛けてきたのか?


「弥生」

「何?」


ソファの前に座り込む弥生が、皐月を見上げた。


「俺ってウザイか?」