「じゃあ怒鳴ればよかったのに。喧嘩もすればよかったのに。」

「母さんに止められた。男同士の喧嘩って、結構激しいから見てられなかったんだろ。」

「家族ではない私が話しかけては…ダメ?」

「…何で兄貴に拘るの?」

「拘ってるつもりはないわ。
ただ家族がいるのにいつも一人なんて辛い。
私は幼なじみの家族に受け入れてもらった。母は北条家に受け入れてもらった。
母が生きていたら今のお兄さんを見て、きっと悲しむと思うから。」

「…そこまで言うなら。できれば君が傷つくのは避けたいんだけど。」

「ありがとう。」



貴士は部屋まで案内すると声をかけた。

「兄貴いる?お客さんなんだけど。」

しばらく待っているとカチャンと鍵の開く音がして、5センチ程の隙間から顔を覗かせた。