月夜の泪





「…帰るか」

「…片付けの連絡、しなくていいの?」

「もう来てるだろ」


その言葉に軽く「あぁ」とだけ言い納得して屋敷から出れば黒ずくめの男達に会う。


「お疲れ様です、相変わらず早いですね」

「…お疲れ様、ありがとう」


黒ずくめの男…特殊組織の片付けを担当する男に話され軽く微笑み少しだけ話す。


「…じゃあ、後頼んだな」

「よろしく」

「はい、任せてください」


「では」と言った男に軽く手をふり車に乗り込み家へと帰る。


「……克、動いてんだろ」

「………知ってたんだ」


静かな車内での浬津の言葉は大きく聞こえ少し間をあけてから返答する。


「…翔さんから聞いた、蓮南を護れって」

「…ふふっ、相変わらず過保護だなぁ…」


浬津の言葉に翔君を思いだしつい笑いながら言葉を漏らす。


「……言われなくても護るけどな」

「…私の周りって過保護すぎるよ」

「蓮南にはそんくらいがいいんだよ」


浬津の言葉に、ふっ…と笑みを溢し煙草に火をつける。



「……大好きなのに、大嫌い…」


そっと目蓋を閉じればまだ鮮明に甦る克との過去の記憶。


楽しかった、ただただ幸せで笑顔があってそこには家族との愛が溢れていた。
何かあれば助けてくれたのは克で、一番心配をしてくれたのも克だった。


いくら憎くても恨んでも恨みきれないのはきっと唯一の兄だから。


楽しい記憶の次に甦るのは、あの忌々しい星が綺麗だった夜の出来事。

すっ、と頬を伝う一筋の涙にひとつの決意が生まれる。


「……全て、終わりにしよう…」


ふっ、と吐いた白い煙は夜の闇へと消えていった。