「…知らないからか…」
(…やっぱ会ったことなかった…)
そんな事を考えながら男の意味深な呟きに珍しく興味を持ち視線は男へと移る。
「…名前、教えろ」
「桐島 蓮南」
「俺は、宮東 辰樹(クトウ タツキ)」
それ以上、何も話さず再度瞼を閉じようとした時不意に気配を感じパッと起き上がる。
「…浬津…」
「え?」
辰樹は突然のことに思わず声を漏らすがそれに答えずひょいっと軽く木から降りる。
すぐにその場を離れ気配のした方へと小走りで向かう。
「やっと来たね」
「…いきなりすぎる」
浬津と呼ぶのは藍色の髪と瞳をした端正な顔立ちの男――向葉 浬津(コウバ リツ)。
「……今日の事でしょ」
「勿論。あとは暇潰しに来ただけ」
にこりと微笑む浬津に若干呆れたように口元を緩める。

