月夜の泪





挨拶回りも終わったのか暫くは二人で話していれば途中で父親らしき人がこちらに近づいてくる。


「お父様!!来て下さったのですね」

「ああ、挨拶も終わったしね。…君が始末屋の方かな?」


優しそうな雰囲気を漂わす男はやはり裕香の父親で、私に視線は移る。


「始末屋の紫白と申します、今日は裕香様をお守りします」


「ははっ、それは頼もしいな。何しろ一人娘だからね…じゃあ私はこれで失礼するよ」


そう言えば上機嫌で離れていく父親に軽くお辞儀をする。


「ふふ…お父様は蓮南さんが気に入ったみたいね」


嬉しそうに話す裕香につられ軽く口元を緩めた時、不意に怪しい男が視界に写る。


「…あっ、私少しトイレに…」

「着いて行きます」


そう言うがやっぱりトイレは嫌らしくトイレ付近までついていく事になった。


あの男…やっぱり怪しい。
こちらをじっと見つめていてやけに大きな袋を持っている。


裕香を狙っているのか…
まあそれなら終わらせるまで。


そこまで考えはぁ…と息をはけば丁度、裕香も出てくる。


「……私から離れないで下さい」

「え…?何かあったの?」


怯えたように聞く裕香に視線だけ動かし口を開く。


「…まだ、わかりませんが怪しい男がいたので」

「……わかったわ」


納得したのかそれ以上の追求はなく無言のまま会場へと戻る。



「…殿内さんといて下さい」


その言葉に裕香が頷いたのを確認しその場から離れる。


二階に上がり下を見るが人が多く中々見つけられない。


……どこ行ったんだろ。


目を凝らし必死に捜すがやっぱり中々見つけられず溜息を吐く。



「……あれ、かな…」


視界に捉えたのは先程見つけた男。


動かずに見ていれば男の視線の先にはやはり裕香。


どっかの殺し屋か…


「…どこの奴なんだかなぁー…」


普通の殺し屋なら私が裕香を護衛する情報くらい掴んでるはず。


まあ…どっちでもいいや。


そこまで考え煙草に火をつけ男を見ていれば袋からライフルを取り出した。


その瞬間に立ち上がり煙草を消せば男の元へと向かう。


ガシャッと音をたて銃を片手に携え気付かれないよう静かに近付いていく。