月夜の泪






「……いきなり起こしてごめんね」

「んー…気にすん、な…」


まだ眠たそうな皆を見て申し訳なく謝ればふあー…と欠伸をしながら答える鈴夜。


「それより…何かあったんだろ?」

「……黒蛇から電話があった」


蒼に促され答えれば、皆の顔は眠たそうな顔は変わり何かを決意したような瞳へと変わる。


「―――…の内容で電話が着た」

「……やっと、って感じだな」


大雅に先程の電話の内容を聞かされても、意外に皆動揺はせず、待ちくたびれたように恵都が言葉を漏らす。



「…身の危険を感じたら、逃げて」

「えー!?そんなの格好悪いよ!!」

「俺は逃げねえからな!!」


無表情で言った言葉は呆気なく千鶴と恵都に反対され暫し二人の言葉に黙り混む。


「俺は男だ!!絶対に逃げねえ!!」

「……恵都、少しは考えなよ」

「じゃあ塁は逃げんのかよ!!」

「格好の問題じゃないだろ今は」


私の心情を察してなのか、恵都を落ち着かせようとする塁に感謝しつつも溢れ出す感情を抑えきれずに口を開く。


「……逃げろって言ったんだよ…」

「だから俺は嫌だからな!!」

「………なん、で…」


抑えきれなくなり震えた声で言えば目を丸くし驚く恵都は黙ったままこちらを見てくる。


「…逃げるのは、確かに格好悪いかもしれないけど…私は皆に傷付いてほしくない…ッッ」

「……蓮南」

「一度だけ逃げれば普通に暮らせるかも、しれないから…皆の人生を潰したくないのっ」


「…わかったよ、俺我が儘いって悪かった…」


バツが悪そうな顔をしながら言う恵都だが何よりも分かってくれた事に安堵し、克との決着はこれからだと言うのに涙がぽろぽろと溢れ出る。



「わ、悪かったよ蓮南!!そんな泣かないでくれよ!!」

「ふ…ふえ…うわぁぁぁぁんッ」


張りつめていた糸が切れたように泣きじゃくる私を見兼ねたようにボスが優しく抱き締めてくれる。


「……ぐすっ…ごめ、なさい…ボス…」

「…まったく昔みたいだな」


昔は、仕事の失敗やまだ悪餓鬼だった頃の浬津に苛められて泣いた時はいつもボスが優しく抱き締めてくれていた。


煙草の香りを漂わせて優しく抱き締めてくれるボスは父親のような存在で安心以外の何者でもなかった。


「……劉…」

「……ッッ…もう寝ろ」


安心した時にだけボスの名前、劉と呼ぶ癖は直らず滅多に口にしない私に少し驚いたようだが直ぐに口元を緩め優しく背中をトントン、と叩いてくれるボス。


そのリズムに導かれるように、いつしか眠りへと堕ちていった。