月夜の泪






「……蓮南…っ」


一夜明け、昨日ボスの家に行ったからか大分落ち着いて倉庫に行けば気まずそうな波留に名前を呼ばれピタリと立ち止まる。



「……昨日は、」

「…おはよう、波留」


波留の言葉を遮り振り返り、いつもと変わらない笑みで話す。


「あ、ああ…おはよう」

「…ねえ、波留…」

「どうした?」


――…裕香って波留の大切な人?


「……なんでもない」


今、何でそんな事聞きたくなった?
裕香が何であろうと私に関係ないはずなのに。


無意識に喉まで出かかった言葉を飲み込み視線を逸らし言いはなつ。


「…先に部屋行くね」


幹部部屋に向かおうと階段に足をかけた時ぐいっ、と腕を掴まれ視界が遮られる。


ふわり、と鼻をかすめた香りにやっと自分が波留に抱き締められていると気付く。


「……何してるの?」


今までに何度と抱きついたりしていたのに何故か今日は胸が高鳴る。
それと同時にチクりと痛む胸。


でも、確かに支配するのは紛れもない安堵。


「…蓮南は、何も思わねえよな…」

「……波留?」


僅かに見えた視界に写るのは苦痛で顔を歪めながら弱々しく呟く波留。


「………何でもない、ただのスキンシップ」


それだけ言えば離れていく体に淋しさを感じるもののどうしようもなく離れる。


「……何かあったの…?」

「…大丈夫だよ、気にするな」


そう言った波留の表情には先程までの違和感はなくいつも通りの表情に、ほっとし頷き今度こそ階段をあがる。