あなたの声が好き。

優しくて…。
心地いい。

あなたの笑顔が好き。
本当に幸せそうに笑うから。

だけど。
その声も…
その笑顔も。
あたしのモノじゃない。

ズキンッ。
あまりの頭の痛さと気持ちわるさで目が覚める。
目を開けて、周りを見渡し固まるあたし。
モノトーンで統一された部屋。
明らかに、あたしの部屋じゃないのは確かだ。
ゆっくりと昨日の記憶をたどる。

3年付き合った彼氏にフラれた。
他に女が出来たから。
浮気なんて、3年も付き合ってたら何回もあったし…。
それでも、あたしは好きだった。

フラれた時。
普通の。
世の中の女子は、泣いて男の気持ちを引き止めたりするんだろうか?
泣いて。
潤んだ瞳で『別れたくない』って言えば、失わずに済んだのだろうか?

あたしには、出来なかった。
変なプライドが邪魔した。
言葉に出来ない何かが邪魔した。

本当は。
ホントは、ウザイくらい泣いて…。

『別れたくない』
『好き』ってすがりつきたかった。

それが出来なかったあたしは、バカで弱虫だ。

彼氏にフラれて、どうしたらいいか分からずに幼馴染に電話。

「あっ!」

昨日の記憶が繋がる。
泣きじゃくるあたし。
困る幼馴染。

「すぐに行くから」
そう言って彼はすぐに駆けつけてきた。
何も言わずただ泣くあたし。
何も言わずそばに居る君。
そして…。

「カラオケでも行くか」

彼氏にフラれた幼馴染への第一声。
でも、なんだかその言葉に救われて。
頷いた。
あとの記憶は曖昧。
ひたすら、彼に歌を歌わせ、自分はお酒を浴びるように飲む。
彼の制止も聞かず飲んだ。

「にしても、頭痛いし…気持ち悪い」
「当たり前だろう」

声のする方を見る。
水のペットボトルを片手に、あたしに近づいてくる。

「お前、飯食ってる?」
「…」
「無視ですか?」
「…食べて…」
「食べて?」
「食べてるもん。1週間前までは…」

その一言に、漫画でよく見る怒りマークが彼のおでこに浮かんだように見えた。

「お前、死にたいの?」

死んでもいいと思った。
フラれるなぁって感じてからは、食事も喉を通らなくて。