[短編]One-Way Ticket

仁はそっと私のそばを離れ那智に何かを伝えたように目線を交わして出ていく。

｢…聞いてたの？…｣


｢ああ。ごめん。｣


｢なんで謝るの？｣


｢……｣


！！


突然、私は那智に抱きしめられた。


瞬時にあいつらにされた行為に重なって、私は恐怖感に襲われる…。


｢いやぁ！いやぁぁ！！｣


もがき暴れ狂う私を那智はよりいっそう強く抱きしめた。


｢千香！

千香！！

俺は那智だ。お前を傷つけた奴らじゃない！

千香…千香…綺麗だよ。

愛してる。

千香…ずっと千香だけを愛してる。｣


不思議な感覚…。


私のなかの感情や恐怖感がゆっくり消えて行くのがわかった。


そして


温かな那智の気持ちが全身に染み込んでくる。


心に色が戻ってくる。


そっと


那智は身体を離した。


そして私の濡れた頬を優しく掌で撫でる。


｢大丈夫。俺は何があっても千香を嫌いなったりしないから。

だから千香、もう一人で苦しまないで。

俺も仁も傍にいるから。｣

また私の目から涙が零れる。だけど…


それは悲しみの涙じゃない

苦しみの涙じゃない


喜びの涙


安堵の涙


再び私は那智の胸の中で…大声で泣いた。