[短編]One-Way Ticket

看護士の打った鎮静剤で私は朦朧としていた。


「何かの恐怖観念が強く働いているようです。」


医師が仁と那智に話している。


「恐怖観念?」

「何か物凄い衝撃的な出来事があって、それに恐怖感が生まれた。

そして…それを思い出す事があると無意識にそれを拒否してしまう。

それが今彼女に起こっています。」


「原因は何ですか?」


「詳しくは本人から聞いてないのでわかりませんが…この症状の患者の多くは、虐待やいじめ、レイプなどが原因であることが多いです。」


二人の顔から血の気がひいていく。


医師が病室から去った後も那智と仁は私についていた

「千香に何があったんだ?」

「わからない。」


「だけど、自殺を謀るくらいの何かが起こった事は確かだ。」


興奮する仁とは反対に那智は冷静を装う。


「さっきの先生の話だと、原因は虐待やイジメ……まさか、レイプ?」


仁はハッと私を見る。
私はゆっくり目を開けた。

「……帰って。」


鉛のように重くはっきりしない頭で私は囁くように言った。


「千香…お前、まさか…」


仁が言いかけたが私は言葉を繰り返す。


「わかったよ。行こう那智。」


「また、来るから。」


仁に促されるように那智は病室から出て行った。


最後は一言もしゃべらなかった那智。ただ視線だけが私に向いていて…


私にはそれが痛み以外の何物でもなかった。