[短編]One-Way Ticket

うっすらと見えたのは白い天井…


地獄…じゃない。私はまだ生きてる。


視界がはっきりしてくるとそこは病室だった。


左手首は包帯で固定されジンジンと熱を帯びたような痛みを感じる。


右腕をみると誰かの手が重なっていた。


大きな掌から優しい温もりを感じる。


そして真剣な眼差し。


…那智。


声できない息が私の口から漏れた。


｢千香…。｣


やっとわかった。
暗闇の中でずっと私を呼んでいたのは…


｢…那智。｣


那智はギュッと右手を強くにぎった。


そして優しく微笑んだ。初めて見る表情…。


｢よかった。｣


その時、私の中にあの時の光景が走馬灯のように甦った。


｢あ…あぁ…。｣


自分でコントロールできない震えと恐怖に襲われる。

｢千香？おいっ、千香。大丈夫か？｣


近付いて来た那智の両手を私は無意識に振り払った。

｢いやっ！｣


｢え？｣


｢いやぁぁぁ！｣


私は頭を抱え込んでベットでうずくまり震えていた。

怖い。怖い。怖い。
あいつらとは違うのに…
怖くてたまらない。


｢千香…？！｣


呆然と立ち尽くす那智がその時の私には見えていなかった。