[短編]One-Way Ticket

お湯を張ったバスタブに私は左腕を静めた。
そして
右手に握った剃刀を左手首の付け根に当てる。


強く押し当てた。


うっすら赤い液体がお湯の中に泳ぎだした。


そしてその手を右にスライドさせた。


水中の中のはずなのに自分の肉が切れる音を感じた。


今度は絵の具のような赤黒い物体と液体が左腕を隠した。


剃刀がバスタブの底に落ちていった。


私はゆっくりと腕をバスタブに入れたまま座り込んだ。


「消えたいの。もうこんな体はいらないよ。ごめんね・・・・。」

次第に体が重くなってものすごい睡魔が襲ってきた。少し寒い・・・。

目を閉じる。

走馬灯みたいなものは見えなかった。

ただ・・・

那智の笑顔が見えた。

遠ざかる那智の姿・・・もう私には届かない・・・―。