[短編]One-Way Ticket

私の中でまるで何かぴんと張り詰めていた糸が切れたみたいだった。


何をやるのにも力が入らない。


何もやる気になれない。


どうしていいのかもわからない。


携帯が鳴っている。


見ると那智からの電話だった。


「もしもし。」

「・・・。」


いつもと変わらない那智の声。
私は言葉が出なかった。ただ涙が溢れた。


「千香？どうした？・・・今どこ？」

「っつ・・・」

溢れる涙を抑えることはできなかった。私は泣きながら携帯を強く握り締めた。

「もう、那智とは会えないよ・・・。」

「え？なに？よく聞こえない。」

「・・・さよなら。那智・・・―ごめんね。」

那智が何かを言いかけていたが私は通話終了ボタンを押した。


耳には那智の暖かで静かな声が残っていた。
「千香」もう大好きな人に呼ばれることはないと思う。

私は那智の声を必死に心に焼き付けた。