「俺、舞子に言い忘れてたことがあった」


昨日あれだけ、達哉の本音を聞いたのに、まだあるんだ。

あたしは、何かちょっと嬉しいけど。


「何?」

そう聞けば、達哉はあたしの右手をつかんで、薬指にはまった指輪を触った。


「これ、舞子が俺のものだって印だから」


「分かってるよ。昨日も言ってたじゃん。大丈夫だよ、絶対に外さないから」


達哉は昨日も同じことを言っていた。

ハッキリ覚えてるよ。あたし嬉しかったんだもん。


「うん。でも、言いたいことはそれじゃなくて……」


「え?」


いつもの達哉じゃないように見える。

ほんとに、真剣な表情が似合わないなぁ………って、失礼か。


「今はまだ無理だけど」


「うん」


指輪を見ていた目線を上げて、あたしの目を見つめる達哉。


「俺が大人になって、ちゃんと責任とれるようになったら…」


何を言おうとしてるのか、何となくだけど予想できちゃった。自意識過剰かもしれないけど、あたし、期待してもいいの?


「絶対……絶対迎えに行くから、そのときにまで左手の薬指、開けとけよ」


心臓がグッとなって、涙が溢れた。


あたしが泣き出してしまったせいで、達哉はかなりあたふたしてる。

嬉しいんだよ、達哉。

これからのことを、当たり前のように約束出来るのが。