あたしと喋っているときには聞いたことがない声だった。低くて、掠れた声が聞こえた。


「え…?」


焦った。

あたしには絶対にそういう態度を見せたことがなかったのに、今の口調は何?


「っ…あ、わりぃ…」

ハッとしたように顔を上げて、あたしを見た。その表情はどこか悲しそうに見える。


無意識に言ってしまったのだろうか。あたしに向けられたあんな言葉、初めて聞いた。



「ごめん……、もう帰ろう…」


再び下を向いた達哉。

いつもは見せない弱気な様子に、思わず戸惑ってしまった。血のついた手をギュッと握る。


「見つかっちゃいけないから、帰ろっか……向井君ももういないし。」


向井君は、きっとあたしたちが話しているのを見て、途中で先に帰ったのだろう。すでに校舎裏にはいなかった。


繋いだ達哉の手は赤くて、あたしの手は肌色で、何となく、繋いだ部分を重く感じた。

彼の手には不安、あたしの手にも不安。でも、不安の原因があたしとは違うんだろう。


何となく、不安になった1日だった。