向井君は何してるの。あたしよりも先に止めに行ったはずなのに、その場に突っ立ったままだった。


「あ、舞子ー」

呑気な口調でそう言う達哉。あたしの顔を見てニッと笑った。


向井君は止められないと悟ったのか、呆れた表情で達哉を見ていた。


「な、にやってんの…!」


「何って………喧嘩?」


大して反省する様子もなく、掴んでいた男の人の胸ぐらをパッと離した。


気がつかなかったけど、達哉の口の端から、少しだけ血が出ている。殴られた痕だろう。


「こんなとこで喧嘩なんかしたらっ、バレちゃうでしょ!」


すでに神崎の意識はなくて、達哉が手を離したときには、地面に横たわっていた。


「大丈夫だって。舞子の彼氏だってことしか言ってないしー」


ニコニコしながら近づいてくる達哉の手は、神崎の血で赤く染まっていた。

一瞬、達哉が怪我したのかと思った。殴られてるのだって、付き合ってから数回しか見たことがない。


「バカじゃないの…」


涙腺がゆるむ。

ポタポタと、涙が頬を伝った。


少し驚いたような表情をした達哉は、そのままあたしを抱きしめた。


「泣くなよー、ごめんって」


頭をポンポンと撫でる達哉。あ、達哉手汚れてたのにな。


「謝るなら、最初から喧嘩しないでよ…」