こうなることは何となく分かっていたから、あたしからは言わなかったのに。
向井君に黙っててもらうように言うのを忘れていた。向井君は、きっとあたしから言っていると思ったんだろう。
「S高に俺の友達がいんだけど、そいつに頼んどく。神崎に広田を諦めてくれって言ってもらうからさ、だから達哉は喧嘩すんなよ。」
向井君は自分のせいだと思ったのか、苦笑いで達哉にそう言った。中学から達哉と一緒だったなら、達哉の性格は理解してるはずなのに。
「は? 意味わかんねぇ。つーか、その神崎ってやつ、舞子に彼氏がいるってこと知らねぇのかよ。」
知っているのか、知らないのか、それさえも分からない。他校の生徒だから、知らなくても不思議じゃないし。
「分かんない。でも知ってたらメールしてこないでしょ。」
神崎がどんな人間なのか知らないから、もしかしたら知った上でメールしてきてるのかもしれないし。
彼氏がいるって知らずにメールしてきてるのかもしれないし……
「ま、んなことどうでもいいけど。とりあえず神崎ってやつが気にくわねぇ。」
立ち上がってあたしに近づいてくる達哉の顔は、不機嫌以外の何ものでもない。
向井君はため息をつき、呆れた顔で達哉を見ていた。止められないのを知っているからだろう。
「なぁ舞子、携帯貸して」
ニコニコしながら手を差し出した。何であたしが携帯を達哉に貸さなきゃならないんだ。



