「いや、でも…」


いつもは少し強引なくせに、こういうときだけ遠慮するんだから。


「いいからー、ほら、家入ろうよ。寒いでしょ、遠慮しないで」


手を引いて強引に家に引き入れる。いつもとは立場が逆だ。


「お母さーん、彼氏連れてきたー」


玄関でそう叫んでリビングに入れば、ニコニコ笑顔のお母さんが、夕食を作っていた。


「あら、いらっしゃい。ご飯食べていくんでしょ? 出来るまで舞子の部屋で待っててちょうだい」


食べていくだなんて、まだ言ってないのに。まぁ、説明する手間が省けて良かった。

手を繋いだまま階段を上がっていくと、達哉の手の力が少し強まった。


「どーしたの?」


部屋にはいると、気温はリビングよりも明らかに低くて寒気がした。


「いや、舞子ん家来たの初めてだよな、俺。こんな急に来て良かったのかよ?」


「いいよ、あたしが無理やり連れて来ちゃったんだし…達哉がそんなに遠慮するの、初めて見た。」


エアコンをつけて座ると、達哉も横に座ってきた。ピタッとくっついてくる。


「そりゃあ遠慮ぐらいするって。また今度改めて家来るから。」

変なとこで律儀なんだから。まぁ、ズカズカ入ってこられても困るんだけどね。


「うん、分かった」


そう返事をして、達哉の肩に頭を乗せる。たまにはこんな日も悪くないかな。