「…達哉…?」


あたしが声をかければ、顔をパッと上げてこっちを見た。


「何だよ舞子、急に家に入るから何かあったのかと思った」

さっきの表情とは一変、いつものようにヘラヘラ笑う達哉の表情に戻った。


「あ、いや…マフラーあげようと思って。達哉冬でもマフラーしないし…あたしので良かったらあげる。」


さっきとってきたチェック柄のマフラーを、達哉の首に巻き付けると、嬉しそうに笑った。


「サンキュー、俺マフラー持ってないから助かった。」


そういえば、達哉の家は父子家庭だった。お母さんは、達哉が小さいときに病気で死んでしまったらしい。


お父さんの帰りが遅いことは頻繁にあるらしくて、夕食も1人の時の方が多い、そう言っていた。



「ねぇ達哉、ご飯食べてく?」


きっと今日も家に帰っても1人なんだろうな。そう思うと、自然と口が言ってしまった。


「え?」


あたし自身、驚いているんだけど、もっと驚いているのは達哉の方だ。


でも、送ってもらったお礼と言ってはなんだが、ご飯を食べていってほしい。


「いいじゃん、食べていきなよ」


「いや、いいよ。何か悪いし」


目をそらされた。遠慮してるんだ。そんな達哉の手を引いて引き留める。


「帰っても1人なんでしょ? だったらいいじゃん、ご飯は大勢で食べた方が美味しいよ」