「舞子、今日祭り来るんやろ? 舞子1人やったら、浴衣着られへん思うて。うち着せたるわ」
「悪いな、広田。俺は後でもいい言うたんやけど、こいつが行く言うて聞かんかってん」
やっぱり、杏か…
「うん、ありがとね。でもあたし浴衣持ってへんから」
「うちが貸すよ。また夕方来るわ」
それだけ言うと、杏は颯爽と帰っていった。
それだけのために、わざわざ…
「俺も帰るわ」
「うん、バイバイ」
中村はただの付き添いみたいで、昼間から杏に振り回されてたみたいだ。
顔が疲れてる。
そんなことはどうでもいいんだった。達哉がきっと怒ってる。
「ごめんね、達哉…」
部屋に戻ってみると、案の定不機嫌顔の達哉。あぁ、もう最悪だ。
「…こっち来て」
そりゃ、そうだ。あんな雰囲気のときに、あんな風に邪魔されたんだから。怒らないわけがない。
素直に達哉のところに歩いていくと、ギュッと腰の辺りを引き寄せられた。
「雰囲気ぶち壊し」
「…だね」
「何て言ってた?」
グッと引っ張られて、達哉の足の上に座らされる。
「今日浴衣着せてくれるって」
「あぁ、今日祭りあるもんな。いいじゃん、浴衣。俺好き」
その体制のまま唇を近づけて、チュッと小さくキスをした。
「祭り、行こーな」
「うん」