私の耳にふいと囁かれた、低くて甘い声は――…
――神崎蒼しかいない。
ビックリして、ふいに立ち止まる。
「…え、」
とっさに神崎蒼の顔を見ると、目が合い、アイツは“放課後で”と口パクで言った。
そして、神崎蒼は何も無かったかの様に通りすぎていく。
……これって、今日もまた図書室へ来いって事…?
手を自分の耳にあてると、さっきのあの声を思い出す。
…心臓がキュッてなるような、そんな感覚がする。
「棗…?どーしたの?」
美緒の声にハッと我にかえる。
「何でもないよッ」
私は笑顔を作ってみせる。
そして、また歩きだした。
「何かあったら、絶対言ってね」
「うん、ありがとう」
美緒には、きっと言うね。
でも、今はまだ教えられない……
それから、ずっと、図書室に行くか行かないか悩んでいた。
…行ったらまた、からかわれるよね
でも行かなかったら失礼?かな…
あぁーっもぅ、分かんない!!
なんて考えてたらもう放課後になってしまった。
「どーしよー」
大きな溜め息を吐く。
考える時間も無い。
「……行くの止めようかなぁ」
だって!
嘘かもしんないし、忘れてるかも。
うん。行っても居ないかもしんないしね!
そう考えよう。
私は家へ帰るしたくをして、下駄箱へ向かおうとして教室を出た。
「…帰ろっと」
すると、
「…どこへ帰るの?」
頭の上から声が聴こえた。
……もしかして、
私は顔を上げ、誰なのか確認する。
「……げっ」
その“もしかして、”が見事に的中した。