「今日からお前は、未須賀芽亜だ」

 あの時、私に名前をくれたのは、貴方だけだった。
 親から捨てられた私を見つけて、話し掛けてくれて、笑わせてくれた。
 どうしようもなく、嬉しかった。
 嬉しくて、嬉しくて、気がつけば、涙を流していた。
 そんな私を優しく抱きしめ、包み込んでくれたのも、貴方だけ。
 ありがとう。
 今まで言った事も無かったけど、感謝してるよ。
 誰にも愛されないと思っていたけど、貴方は違った。
 私を愛し、誰よりも近い場所に私を置いてくれた貴方に、感謝します。
 ありがとう。
 今はこれしか言えないけど、受け取って下さい。
 ありがとう。
 
 ありがとう。

 ありがとう――・・・・

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 桜が満開を迎える時期、ピンク色に染まる風景。木々の間から抜ける太陽の光が、余計に桜の美しさを引き出している。
 その情景に、酔ってしまいそうだ。
 そんな桜が咲く、町並みから外れた場所に立つ、和風作りの家屋。
 コンクリートマンションが珍しくない現代で、これ程古さを感じる家は、そうそう無いだろう。
 一言で言い表せば、古い。
 元から人があまり通らない為、この家屋を知っている者は皆無。