玲、と私を呼ぶ声もどこか遠い。切なげに歪む目の前の゙男゙の顔を見て、酷く馬鹿げていると思った。
突き放したのは、あんただ。
「゙啓介さん゙、今日は御馳走様でした。」
「ッ―――!」
「わざわざすみません。偽の妹のために、お金も時間もさいていただいて。」
「゙啓介さん゙は家族でも何でもないのに、ね?」
―――パシン!
乾いた音と共に、私の左頬に強烈な痛みが走った。じんじんと熱くなる頬を押さえ、痛さに反響して瞳には涙が浮かぶ。
店内にいる私達以外のお客さんのざわめきが聞こえる。店員さんがうろたえているのも見えた。
目の前にいる男はというと――――――――…
「ふざけたこと言ってんじゃねえぞ!!!」
「……啓、に、」
「啓介さんなんて、家族じゃねえなんて、二度と口にすんな!!」
我を忘れたように怒鳴り散らす啓兄の顔は今まで見たこともないくらい怒っているのに。
その目からは、私と同じ涙が流れていた。
゙心の傷゙は、一番しつこくて厄介なのだ。


