「柚芽、食事ができたから

ちゃぶ台を拭いて箸を並べろ」

ショウガ焼きの隣に千切りキャベツと

プチトマトをのせながら

茶の間にいるであろう

柚芽に声をかける。

しかし、いつもならすぐに聞こえる

はずの足音が聞こえない。

「柚芽ー?」

前掛けを外しながら茶の間を覗くと、

電気の付いていない部屋に、

読みかけの絵本がぽつんと置いてある。

「・・・・柚芽?」

不安になって廊下に出てみると、

玄関がわずかに開いていた。

――まさか。

頭をかすめた考えを振り払いつつ

玄関に向かい、視線を下げる。

小さな柚芽の靴が、ない。

すっと頭の中が冷たくなり、

気が付いたときには

外に飛び出していた。

「柚芽!」

通りに出て左右を見渡すが、

どこにも居ない。

――居なくなってしまった。

ズキズキと痛む頭を抱えながら、

しばらくその場に立ち尽くしていた。