薄暗い廊下が続く。
 傍らにはいくらかの人間らしい塊が横たわっていて、これが地獄への通り路である事を示しているかのようである。廊下を抜けると、目映いばかりの光が視界を覆い、それまでの鬱屈とした雰囲気を破壊し、地獄への道が一転して天国への道だった事を思わせる。
 二人いる。自分の他に、二人の人間がそこにいる。一人は黒の燕尾服を着た初老の男性だ。もう一人は白いウエディングドレスを着た、美しい女性だ。女性と言っても、まだ十代だろう幼さの残る表情をしている。そして、何故だか二人とも笑顔を絶やさない。
 チカッ、チカッ。
二人の後ろでランプが点滅した。やがて、天国に所狭しと設置された不思議な形状をした機械達が稼動し始める。鏡のように磨かれた歯車と歯車が噛み合わさって回転を次の歯車へとつたえてゆく。鋼鉄製らしい鉄柱はピストン運動を延々と続け、無数に取り付けられた裸電球は何らかの規則性に従うように口語に点滅する。
 視線が動く。部屋の隅に写真が木製の学におさめられ、壁に掛けられている。大写しになったモノクロームのそれには女が歪んだ笑顔を浮かべている。不意にそれが笑うのを止めたように見えた。するとそれに共鳴するかのように全ての機械が稼動を停止する。一瞬の静寂。不意に沈黙が破られた。ウエディングドレスの女が突然狂ったかのように喚きだしたのだ。あきらかに異常だった。それなのに、不可解にも燕尾服の男は笑顔を絶やさないで、こちらを見続けている。
ああ、ここはやっぱり地獄だったのだろうか。
そう思った瞬間に明かりが消え去り、闇がそこを占拠した。聞こえてくるウエディングドレスの女の叫び声だけが知覚を刺激する。
一瞬の間合い。唐突に叫び声が収まったと思うと、ぼんやりと仄かな光が視界の中心に浮かび上がってきた。その微少の明かりが、ウエディングドレスの女の顔を薄っすらと照らす。女の表情は先ほど浮かべていた種類とは全く異なった種類のワライを浮かべていた。光源は蝋燭のようだ。