速水といる時、宇美の“僕”は姿を消した。宇美は本気で男に惚れてしまった。愛は理性のハードルを越えていた。もう止められなかった。速水も宇美を可愛がってくれた。
いつだか、速水が飲み過ぎたので、宇美は自宅まで速水を介護した。腕を肩にかけさせて駅から歩いた。
「木村ー、飲み過ぎちゃったよぅ。」
「はいっ、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない。」
「しっかり捕まっていて下さいね。」
速水は宇美の耳元で
「悪いねぇ。」
を連発した。酒臭い。でも宇美は近くで速水の鼓動を感じてドキドキしていた。股間がムラムラしてきた。宇美はだんだん速水を欲しくなってしまった。このまま抱き着いてキスしたかった。しかし出来なかった。二人の関係を焦って壊してはいけない。宇美は誘惑に耐えた。告白したい。気持ちを正直に伝えたい。でもまだ告白はできなかった。良好な関係を壊したら、今までの時間が全て無駄になってしまう。第一、宇美は速水の気持ちを知らなかった。速水が自分と同じ気持ちとは限らない。告白した時点で離れていくかもしれない。宇美の中で同性に恋することは異常だと思う“僕”と好きなものは好きなんだから、しょうがないでしょうという“あたし”が喧嘩をしていた。速水を自宅の玄関まで送った時だった。いつものように握手を求めて速水が言った。
「木村ー、お前しかいないんだよぉ…。」
二人は一瞬見つめ合った。目がトロンとしていた。宇美は速水が酔った勢いで冗談を言ったのだと思った。もし本心だったら、とろけてしまいそうだった。