2 in 1

ある日、宇美は光男に“一”が誰かを探してみたいと思っていることを話した。光男もそのことに賛成して協力すると言ってくれた。むしろ宇美以上に乗り気だった。
「いいよ。俺も知りたいからさ。」
まずはクラスの中で、名前に“一”の字がつく千歳一君、代々木一子さん、吹田貫一君の3人をピックアップした。宇美も光男も、3人のうち誰ともまともに話したことがなかった。それぞれ会話するのは初めてだった。体育の時間のマラソン中、宇美は前を走っている千歳に追い付いた。炎のように吐いた息が白い。苦しさを我慢して千歳君に聞いてみた。
「なぁ千歳君、君はミクティって知ってる？」
千歳は振り返って宇美を見るなり一瞬驚いた顔をしたが、すぐに
「いや、知らない。何それ？」
と逆に聞いてきた。
「ううん、何でもない。ごめんね。いきなり変なことを聞いて。」
宇美は千歳を追い抜いた。彼は真面目な生徒だった。彼が学校で携帯電話をいじっているところを見たことがない。でももしかしたら、家でこっそりとパソコンで見ているのかもしれない。
代々木は光男が廊下ですれ違った時、聞いてくれた。「あぁー、代々木さーん、ちょっといい？」
「なぁーによー、八田君。今急いでいるんだからぁー。」
「あー、ゴメン。あのさー、君はミクティに入ってる？」
「えぇ、入っているけど。それがどーかしたのー？」「いやーどーもしないけど、マイミクどのくらいいるのかなーって思ってさー。」
「たくさんいるよー。じゃあねー。」
「おう、悪い、サンキュー。」
代々木は剣道部のマネージャーをしていて、同じ部の高橋という先輩の彼氏がいる。ミクティはやっているそうだが、マイミクもけっこういるとのことだった。ヤンキーの吹田は帰り際に下足箱の陰でタバコをふかしている時に聞いてみた。「ごめん、ちょっと聞きたいのだけど、吹田君はミクティ入ってる？」
「いや、俺は入ってねぇよ。携帯ほとんどいじらねぇし。俺はバイクとタバコ以外は興味がなぇんだ。」
と話していた。
うーん、どうやら3人とも違うようだ。はたしてあの3人でないとすると、“一”の字とは全然関係のない別の誰かということか…。