「ちょっと待って。
今開けたばっかだから、まだあんまり暖かくない」

山田はそう言ってカイロをゴシゴシ揉む。

その瞬間、勢い余って袋が破裂する。

ボフッ、という音とともに吹き出た鉄粉が、山田の顔にかかる。

「うわっ」

「おい、大丈夫か?」

俺は取りあえず自転車から降り、それを自立させる。

「大丈夫、もう一個持ってきたから」

山田はポケットの中からまだ開封してないカイロを取り出して見せた。

俺はその様子に笑ってしまう。

「違う違う。粉のことだよ」

俺はそう言って、彼女の顔や髪に付いた鉄粉を払ってやる。

指が頬に触れた瞬間、山田は目を伏せる。

俺はこのとき初めて彼女の顔をじっくり見た。

造りは小さいが、整った顔立ち。

すごく美人というわけではないが、かわいらしい部類に属するのは間違いない。