俺は思わず、中村の位置から山田が見えないように体を移動する。

「何で―――」

言いかけて思い止まる。
中村は、俺が来るようになる前から非常階段を利用していたことを思い出した。

中村と初めて話したのはこの場所だったっけ。

「天気良くないけど、何か見える?」

俺がフェンスから外を見ていたのが分かったのか、中村が問う。

「いや、別に」

我ながらごまかすのが下手だ。

「今日は悪かったな、初日から騒がしくて」

彼女に掛ける言葉をやっと探し出して口にすると、中村は笑って首を振る。

「誰でもあの時期は年上に興味があるものだから」

彼女の言葉が少し引っ掛かったが、それ以上確かめる気もなかった。