世間体を考えても、山田の気持ちを考えても、俺が家を訪れるのは正しい選択とは言えない。

いや、それだけじゃない。

結局俺には、好きな子が風邪で寝込んでいるというのに、見舞う勇気がないんだ。

そんな自分が情けなくて、たまらなくなった。

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帰り道、俺は無意識に山田の家へ自転車を走らせていた。

そして曲がり角で足を止める。

一つ曲がれば山田の家だった。

だけど俺は曲がることができない。

これが俺と山田の、どうしようもない距離なのだと実感した。