「違う、嫌だったんじゃない。
私、初めてで、びっくりしちゃって」

山田は赤くなっていく頬に手を当てて言う。

山田の口にした初めて、という言葉にホッとした俺は、何て自分勝手なのだろう。

自分は他の女性とキス以上のことさえしたことがあるのに。

彼女が他の男のものになったことがない事実に、こんなにも安心している。

「山田の誕生日はいつ?」

彼女の家まで送る途中で、俺はふと尋ねた。

「3月3日のひな祭り」

「その雛なんだ」

彼女の返事に俺は笑う。

誕生日を迎える頃、彼女は高校を卒業する。

俺たちは晴れて、教師と生徒の関係じゃなくなるのか。

「来年の誕生日、どこか行こうか。
卒業祝いも兼ねて」

俺の言葉に山田は目を輝かせた。