山田と口びるを重ねたのは、ほんの一瞬だった。

彼女を困らせたくなかったというよりは、自分の高まる感情を抑制させるため。

彼女の肩を掴んで体を離れさせると、途端に冷静になり、自分の行動に呆れた。

この間、彼女が嫌じゃなくなるまで待とうと決めたばかりなのに。

「ごめん」

俺は目の前で固まってしまった山田に向かって、やっとそれだけ言うことができた。

「嫌だったよな」

山田は即座に首を振る。

だけど彼女の顔はまだ緊張していて、きっと俺に気を使って否定してくれているのだと悟る。

「本当にごめん」

謝ったり許したりする問題じゃないと分かっているのに、俺はそれしか言えない。