「仕事中だって言ったはずだけど」

玄関の扉を開けて俺の顔を見るなり、洋平はため息をついた。

「言っておくけど、彼女はいないよ」

「知ってる。
駅で、向かいのホームから電車に乗るのが見えたから」

俺の言葉に洋平は苦笑する。

「ごまかしても無駄ってことか。
タイミング悪いな。
彼女らしいというか何というか」

洋平はちらっと腕時計に目をやり、俺を見た。

「まぁ、上がって行けば」

洋平に促され、俺は靴を脱いだ。

ここに来たのは何年ぶりだろう。

今でも絵を描いているからか、部屋の中の独特な匂いは、彼が美大生の頃から変わっていない。

俺はリビングで、飾ってあった絵に目を奪われた。