「今帰りですか」

黙っていると変なことを口走りそうで、俺はつい当たり前のことを聞いてしまう。

手嶋先生は目を細めて俺を見る。

「佐々本先生、もしかして雛と…?」

やっぱり見られてたか。
俺は顔を手で覆う。

どうして俺は手嶋先生に隠し事ができないのだろう。

「わざわざ、子供のお守りをすることないのに」

手嶋先生は苦笑して俺の横を過ぎる。

「俺としては、手のかかる妹分が自分の手を離れてくれて助かったけど」

手嶋先生は俺を振り返らず、手だけ振って去って行った。

さっきの武内にしろ、手嶋先生にしろ、俺に向かって言うことは同じ。

確かに山田は恋愛には疎そうだったけど、まさかみんなに警告される程だとは思ってなかった。

どれだけ山田は知らないというのだろう。

まさか付き合うってのが、手を繋いで一緒に帰ることだと思ってたりしないよな。

俺は我慢できるだろうか、などとため息をつきながらも、玄関までの足どりは軽かった。