俺は山田が思っている程、器用な男じゃないよ。

実際、佐藤先生が入る隙間もないくらい山田でいっぱいだったわけだし。

さすがにそれを知られるのは恥ずかしいから言わないけれど。

山田のペースに飲まれ、キスしそびれたことに心残りを感じつつも彼女から離れた。

「―――そう言えば、もう体調はいいのか」

「うん」

山田は笑うけど、彼女の言葉は信用ならない。

以前も彼女はこう答えたくせに、翌日まで寝込んでいたことがあったし。

「今夜も家に一人なのか?」

「大丈夫。
いざとなったらお兄ちゃん呼ぶし」

確かに手嶋先生がいてくれれば安心だ。

だけど、いくら兄のような存在だとしても、他の男を呼ばれるのは気分のいいものじゃない。
実際、彼は山田と血が繋がっていないわけだし。