ただ、山田が愛おしくてたまらなかった。

模擬店に行く約束を俺が守るのを期待してくれていたことも。
体調が悪いのをこらえてまで待っていてくれたことも。

グラウンドから後夜祭の音が微かに聞こえる。

俺が今こうしているのは、校内にはほとんど誰もいないことが分かっているからだろうか。

あるいは、そんなこと関係なく、ただ山田を抱きしめたくて仕方なかっただけかもしれない。

山田の華奢な体は、このまま力を入れれば簡単に壊れてしまいそうだった。

彼女の体温と香りが俺を余計に惑わせる。

「先生…?」

俺の腕の中で、山田は声をもらす。

かわいそうに。
きっと訳が分からず、混乱しているに違いない。