今までの俺なら、きっとこの手を離さなかった。

女性を泣かせたまま帰すのは気がひけるから。

だけど、その優しさが余計に相手を傷付けてしまうことが、今なら分かる。

俺は迷った末に彼女の手を離した。

「―――本当に離されるとは思わなかった」

佐藤先生は俺を振り返り、悲しそうに笑う。

「もう先生の優しさに付け入れないみたいですね…。
今までありがとうございました」

それはこっちのセリフなのに。
何も言えない俺は、何て情けないのだろう。

彼女は一呼吸置き、先生、とつぶやいた。

「あの日、私が酔った先生を訪ねた夜、私たちは何もなかったんです。
今まで話題を避けてました、ずるくてごめんなさい」

え…?