先生を知ったのは、私がまだ中学生のとき。

義理の兄みたいな存在の手嶋裕之が勤務してる高校に、先生が新人として入ってきた。

佐々本恭司。

あんまり他人に興味のないお兄ちゃんの口から、同じ名前が何度も登場するのが珍しくて、私はずっとどんな人なんだろうと思っていた。

だからお兄ちゃんの高校に入学が決まったときは、やっとその人に会えると思ってすごく楽しみだった。

入学初日、私は一目見てすぐに彼が佐々本先生だと分かった。

「そこの生徒、どこ行くんだ?
入学式は体育館だよ」

それが先生が私にかけた、初めての言葉。

私は言われて初めて、体育館に向かうつもりが、逆方向に来ていたことに気付いた。