「まずは自己紹介ね」


あたしが席に座ったのを確認した後、荒井君は突然そう言い出した。


「っへ?」


いまさら?


「お互いの事をろくに知らないのに、信じろなんて無茶な話だからね」


荒井君はふにゃっと笑った。


その笑顔と人懐っこさが、彼の魅力の1つだ。


「まずは俺から」


そう言ったあと、椅子から立ち上がり、息を吸った。

「荒井蓮、17歳、高校二年生で担任は倉田。ちなみに今まで出席番号で一番以外になったことはありません」


どうでもいいことばかりだった。


ただ、名前。


「蓮っいう名前だったんだね……」


よく考えれば、クラスメイトからは「れんー」と呼ばれていたかもしれない。


「え、いまさら?」


「うん、……ごめんなさい」


「まぁ、今知ってもらったからいいけど」


荒井君は落ち込みながら椅子に座った。


「はい、次は森下ね」


にこっと笑った顔が眩しい。



あたしはその笑顔を直視できず、目を逸らしたまま、椅子から立ち上がった。