心とは関係なく、涙は溢れてくるのだ。 心臓は早く鼓動を打つのだ。 ぐっと歯を食いしばって立ち上がり、剥きかけの桃と包丁を手に取った。 手が、ふるえる。 桃など上手く剥けるはずがなかった。 思った以上に動揺しているみたいだった。 「…った」 気が付けば、指から血が溢れ出ていた。 包丁で指を切ってしまったらしい。 痛みは、感じなかった。 だから水で流そうとも思わなかったし、何か処置をしようとも思わなかった。 いっそ、このまま…、 「…ちょ、何してんの」 右耳に、かすかに届く誰かの声。