そんな、はずはない。
彼な、はずがない。
心の中ではそう思っても、わたしの耳は素直にその声に反応してしまっていた。
鼓動が早くなってくる。目を閉じる。
振り向くことなど、できなかった。
「あの…、トイレって、どこ?」
今度ははっきり聞こえたその声に、心臓が飛び跳ねた。
この声は、
たかおちゃんだ。
忘れるはずがない、あの優しい声だ。
愛しいあの人がすぐ近くにいる。
この2年間、遠くにいた彼がすぐそばにいる。
振り向きたかった。彼の顔を見たかった。
心とは反対に、体は素直に動いてくれないものだ。
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