*Missing*
「どこにあんだー?全く…」
キッチンの至る所をあちこち探し回ってみるけど、目的の物が見つからなくて、テーブルに置いてあるビンのビールは既に冷えてはいない筈。
「あー!くそっ」
一緒に暮らして二年になる彼女と些細な事で喧嘩してしまって、彼女がこのマンションから出ていってしまった三日目の夜。
俺は自分の家で迷子になりそうだった。
俺の家なのに、このマンションはすっかり彼女の色に染まってしまっていて、彼女が居なければ、栓抜きすら何処にあるのかもわからない。
いつも当たり前のように、温かい食事が用意されていて、アイロンのきいたYシャツに、それに似合うネクタイ。
そんな日常が当たり前だった。
何も言わなくても、いつも俺の為に尽くしてくれていたんだ。
一人だと何も出来ない。
一人だと何もわからない。
彼女が出ていってしまってから、初めてそれに気付かされた。
意地を張るのはもう止めにして、素直に謝ろう。
携帯で彼女のアドレスを開くと。
−−ピンポーン…
突然のインターホンの呼び出しに軽く舌打ち。
一体誰だ?
こんな時間に……
携帯をスエットのポケットにねじ込んで、玄関のドアを開けると。
「ただいまー。あー疲れた」
両手に紙袋を大量に持った彼女が、俺がドアを開けた隙間からするりと中に入ってきて。
「よいしょっと。ハアー……、温泉は疲れが取れると思ったけど、余計に疲れたわ。やっぱりうちがいちばんね」
何事も無かったかのように荷物を置いて、部屋へと上がる彼女を俺は後ろから抱きしめた。
「え?何?どうしたの?」
「ごめん」
「へ?何謝ってんの?」
「お帰り」
「うん。ただいま」
「もう何処にも行くな」
「親と温泉旅行に行ってただけじゃない」
「……は?」
そう言えばそんな事言ってたような……
「は……、ははは」
「ちょっと、ホントにどうしたの?」
首をひねって見上げる彼女が可愛くて、俺はそのまま彼女を持ち上げて、寝室まで運んでいった。
*end*

