*short.short*



*Graduation*



「ごめん…、好きな人がいるんだ……」


その一言に私はその場から走り去った。


言っておくけど、私に言われた言葉じゃなくて。
偶然聞いてしまっただけ。


今日。


卒業してこの学校からいなくなる先輩に告白するつもりだった。


私は出鼻をくじかれ、さらに告白もしていないのに玉砕してしまった。


「うひっ…、うぅ〜っ…」


校舎を泣きながら走った。


同じ美術部でいっこ上の先輩。


優しい先輩。
格好いい先輩。
ちょっと間抜けな先輩。
笑うと八重歯が見える先輩。
いちご牛乳が大好きな先輩。


そんな先輩の書く油絵に心奪われて。


先輩自身に私の心も奪われてしまうに、そんなに時間はかからなかった。


泣きながら走って美術部室までやって来た。


卒業式の後の美術部室は誰も居なくて。


最後の別れを惜しんで、いつまでも帰ろうとしない卒業生達の賑やかな声が校舎の外から微かに聞こえてくるなか。


私は立て掛けられたイーゼルの前に立つ。


今日渡す筈だった、大好きな先輩の肖像画。


私の肖像画は抽象的すぎて、これがホントに人物の絵だなんて、誰の目にもわからないのをいい事に、三ヶ月もかけて書いたもの。


イーゼルからキャンバスを外してバッグの中にしまっていたら。


「あれ?まだ居たのか?」


大好きな先輩の声がして。


「…はい。忘れ物…。取りに来ただけですから、もう帰ります…」


泣いてる顔を見られたくなくて、俯き、バッグを肩に掛けて足早に先輩の横をすり抜け……


ようとしたんだけど、先輩に腕を掴まれ、そこから足を踏み出す事が出来なくなった。


「俺も、忘れ物したんだ」


忘れ物?
それなら何もひき止めなくても……


これ以上先輩と一緒にいたりしたら、もっと悲しくなっちゃうよ……


「コレ、忘れた」


先輩は私のバッグをヒョイと奪って。


「それと、コレも…」


先輩は掴んだままだった私の腕を引き、先輩の胸に飾られたリボンの付いた造花が私の視界いっぱいに広がった。



*end*