「…っ、ああぁ!」

 思い出したくないのに。
 名も知らぬ彼女はそれを許してはくれない。
(…斬り込むんだ!これは幻で夢なんだから)
 僕は大きく声を張り上げて、竹刀を高く振り上げた。
 迷いを振り切るように。
 でも、

「胴ぉー!」

 身体に衝撃が走ったのは、僕の方だった。
 相手の竹刀が身体に食い込んで、駆け抜けていく。

「勝負あり!」

 審判が、手を挙げて試合を制した。
 僕はゆっくりと相手へと視線を向ける。
 でもすでに、そこに彼女の面影はなかった。

「礼!」

 試合終了の合図に、僕は想像以上に疲労した身体で、軽く礼を返す。
 その僕の耳元には、今はすでに居ない、彼女の微かな笑い声が残されていた。


End.