そこには、ひとりの男の子がいた。
いや、男の子といっても先輩のようだ。
綾音より、身長も大きい。
いつのまにたっていたのだろう?
綾音は、呆然とその人をみていた。
「ねえ」
とつぜん男の子が口を開いた。
「あんた、ソフトテニス部の藤野綾音だろ?何かあったのか?」
綾音は、驚いた。
なぜこんな初対面の人が、自分の名前を知っているのだろう?
まさか、前どこかで会ったことがある?
…思いだせない。
考えてもわからないので、綾音は本人に聞いてみることにした。
「なんであたしの名前…知ってるんですか?」
「俺の格好みてわかんない?」
クス、と笑って、男の子は答えた。
綾音は、その人の格好に目をやる。
どうも、テニスコートの隣のグラウンドで練習をしている、サッカー部のユニフォームらしい。
それで、この人がサッカー部であることは分かった。
「わかり…ません」
じゃあ、と男の子は言う。
「大ヒント。いつもテニスボールをグラウンドに飛ばしてくる綾音に、ボールを渡してたのは誰でしょう?」
もう呼び捨て!?と思いながら、ようやく綾音は思いだした。
「あー!でも、どうしてあたしの名前を?」
「綾音が先輩に名前叫ばれてるの、聞いたんだよ」
確かに綾音は毎日桜先輩に大声で呼ばれているが…。
自分が知らない相手に知られているなんて、恥ずかしく思った。
